fuyugure.

雪音



雪音。


一面が真っ白で、かろうじてそこに残る足跡を追っていた。
周りはまるで、雪に音を奪われたかの様に無音で、私が歩くこの足音も耳に届く頃には、消えていた。
息は白く。空も白く。雲が重く垂れ下がって、天井を低く見せた。
そのから散り落ちるような軽い雪が、舞って、私の体を逃げるように滑って、白い地面に落ちては、なじむ。
私は、たまに大きく空中に白い息を濁らして、その足跡を追う。
薄い。靴だと思う。小さい足だ。私と変わらない。女の子か。男の子の子供。
歩幅は、狭いけれど、しっかりそこを踏みしめ一線を引くようにそれは続く。
しばらくして、その先に人影を見た。
近づくと、女子高生の制服を着た女の子だった。薄いぺったんこのローファーを履いている。
彼女は、私に気付いて振り向く。そして少しの笑顔で軽く会釈をした。
「どこまで行かれるのですか?」
彼女は訊く。
「わからないの。けど、目的はあなたと同じように思う。」
先は変わらず真っ白で、そこには追ってきた足跡もない。
「ここの先に、雪の果てがあると聞きました。たぶんそれに誘われたんだと思います。」
彼女は、しっかりとした口調で、先を見る。
「御一緒していいかしら?」
私は、彼女を見て言う。頬が赤く染まっている。
どうぞ。と彼女は言って、手を差し伸べてきた。私は、その冷たい手を握った。彼女も私の手は。冷たいと思ったと思う。
彼女は、15歳で、高校生になったばかりと言う。双子の姉で、妹は可愛らしく、元気な子で、笑顔が素敵と教えてくれた。
その分、私はダメだったと、彼女は言う。
内気で、あまり人と話すのも得意でないし、妹の華に隠れて生きてきたと。
私は、妹さんと会った事がないけど、あなたは可愛らしいと言った。
彼女は少し笑って、ありがとうございますと言った。
母の名前は雪(ゆき)と言って、姉の自分を結(ゆい)、妹を晶(あきら)と言うと彼女は言った。
三人で雪の結晶なんです。と、彼女は笑った。
「でも。」
彼女が、そう言うと、降っていた雪がそこで、ぴたりと止んだ。
「ここが雪の果てのようです。」
先には、緑が広がっていた。目の前を区切りに雪は無くなり、まるでそこに壁があるように、向こうには日が差していた。
「お付き合いありがとうございました。私、先に行きますね。」
そう言って、彼女は手を放す。
そして、出会った時の様に軽く会釈をして、そこに飛び込む。
日に当たる所から、彼女は融けて、水になり、土に還る。
あぁ、そうか。
そう思った。
後ろを振り向く。足跡がひとつになっていた。
ここに来た意味も、ここを歩いていた意味も忘れていたけど、思い出した。
終わりなんだ。ここが。
そして、向こうは始まり。
少しして彼女は、空に上がり、雨となり、また命となる。
そうか、そう思い、そこに飛び込んだ。
しばらくして、雪の中を歩く私が居た。
一面が真っ白で、かろうじてそこに残る足跡を追っていた。
しばらくして、その足跡の主に会う。
彼女は、女子高生の服を着てた女の子だった。
名前を晶と言った。
どこかで会った気がしたが、思い出せなかった。
彼女は、双子の妹で、姉は、気が利いて、優しく、聡明だと教えてくれた。